ホテル御曹司が甘くてイジワルです
「さ、待たせるのは悪いから、行っておいで」
ぽん、と肩を押され、私はしぶしぶ頷いた。
私が事務所から出ると、気づいた清瀬さんが運転席から降りてくる。
今日はダークグレーのスーツを身に着けている彼は、相変わらず凛としてかっこいい。
「急に誘って悪かった」
憮然とした表情の私に向かって、苦笑しながらそう言う。
「館長を通して誘うなんてずるいです」
「じゃあ、次からデートは直接誘うことにする」
「デートって……!」
私が言葉につまっているうちに、スマートにエスコートされ助手席に座らされた。
清瀬さんは本当に、人を自分のペースに乗せてしまうのがうまい。
運転席に乗り込みシートベルトを着ける彼を見ながら「どこに行くんですか?」とたずねると、「どこだと思う?」と聞き返された。
そんなこと聞かれたって、突然車で迎えに来られてヒントもなく行先がわかるはずがない。
「きっと、真央の喜ぶところだよ」
そう言って、彼は車を発進させた。