ホテル御曹司が甘くてイジワルです






しばらく車を走らせたどり着いたのは、古ぼけたコンクリート製の大きな建物だった。
もうしばらく使われていないんだろう。看板は取り外され、なんの施設かわからない。

「ここは……?」

がらんとした駐車場に車が停まり、戸惑いながら助手席から降りた私に「ついておいで」と彼が言う。
迷うことなく進む清瀬さんについて建物の裏手に回ると、ドーム状の銀色の天井が目に入った。

「もしかしてこれって、プラネタリウムですか……?」

うちの施設も小規模だけど、外から見る限りそれよりももっと小さく古そうだ。
前を歩く清瀬さんに問いかけると、振り返った彼が頷いた。

「そう。一九六十年代に作られたプラネタリウムだ」
「わ、相当古い……。そんな古いプラネタリウムがまだ残ってたんですね」

私が驚くと、清瀬さんが歩きながら続ける。

「施設の老朽化と地域の少子化で、去年閉鎖されたらしいけどな」

どうりで。看板も取り外されたさびれた建物。きっともともとは科学館だったんだろう。

鉄筋コンクリート製の二階建ての建物を見上げてもひと気はなく、しんと静まった敷地内に私たちの声だけが響く。

< 94 / 278 >

この作品をシェア

pagetop