ホテル御曹司が甘くてイジワルです
なんで清瀬さんはここに私をつれて来てくれたんだろう。
不思議に思いながら田端さんの後に続く。
そして、えんじ色の両開きの扉の前にたどりついた。
「ここがプラネタリウム室です。ドーム径は八メートル。座席数は約五十」
「約?」
田端さんの説明に首をかしげると、目の前の扉が開かれた。
電気がついていないから、窓のないドームの中は真っ暗だ。
田端さんが手に持った懐中電灯で中を照らしてくれる。
「わぁ!」
『坂の上天球館』よりもひと回り小さいプラネタリウムドーム。
中央に設置された年代物の投影機。そして簡素なコンソール。
けれどそれよりもまず目を引いたのは、大きな空間だった。
「座席がない……」
驚きの声をあげた私を、清瀬さんが横目で見ながらうなずいた。
普通のプラネタリウムならある当然はずの座席がそこにはなかった。
かわりに円を描く壁にぐるりとそうように長いベンチが設置してある。