冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
正座をし、父親の言葉にじっと耳を傾けていた了は、腿に置いた手を握りしめ、頭を下げた。


「はい。私の至らなさで、グループの顔に泥を塗りました。弁明のしようもありません」

「役員からもはずす。身の振りかたは自分で考えろ」

「はい」


横に私をいさせながらも、親子の対面ではなかった。ソレイユグループの総帥と、グループ内のひとつの会社を任された人間のやりとりだ。厳しく冷静。感情の介在する余地はない。

顔を伏せている了が、唇を噛みしめているのがわかった。屈辱だろうし、悔しいだろう。ソレイユグループそのものが、了の家でもあるのだ。今、失敗者の烙印を押され、そこからはじき出されようとしている。

柔らかな日差しの降り注ぐ庭から、恵の笑い声が聞こえた。了のお母さまがつれ出してくれているのだ。

了にも当然聞こえたに違いない。彼の身体が、ぴくっと反応した。

父になる前に、大きなものを失ってしまった了。

見ていて胸が痛かった。

その夜、約一週間ぶりに家に帰ってきた了は、マットレスに倒れ込むなり寝入り、そのまま昏々と翌日の日曜日も眠り続けた。


「ねえ、了、一度起きて」


夕方に差し掛かった頃、さすがに心配になって、そっと揺り起こした。丸一日近く、飲まず食わずで眠っている。このままじゃ脱水になってしまう。


「ん」


寝つきも寝起きもいい了は、すぐにぱかっと目を開けた。しかしそれは私が起こしたのとは別の理由だった。枕元の携帯が震えだしたのだ。

即座に手を伸ばし、「はい」と出てから、私の存在に気づいたらしい。携帯を耳にあてながら仰向けに寝転がり、そばに座る私の手を握った。


「寝てたよ、うん。行った行った。えーっと、ちょっと待って」


起き抜けのきょとんとした目つきが、私を見上げる。


「ジョージが来てもいい?」

「ぜひ夕食もとっていって」


了は電話に向かって手短に歓待の意を伝えると、「シャワー浴びよ」とだれにともなく言って、身軽に身体を起こした。

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