冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
すぐに目を伏せ、取り消すように首を振る。


「ごめんなさい、早織はそんな人じゃないわよね」

「あの、少し話せない? 座れるところで……」


私はベンチでもないかと見回し、さっきのコンビニにイートインコーナーがあったのを思い出した。


「なにか温かいもの、ごちそうする。先に座ってて」


逃がさないよう、だけど追い詰めている感じが出ないよう、そっと真紀に近づき、腕をとる。彼女は抵抗しなかった。

コーヒーや紅茶は避けている可能性が高い。私は迷い、ホットココアのペットボトルを買った。自分も同じものにした。

真紀は店の隅のスツールに腰かけ、億劫そうに身体を反り気味にしていた。前屈みになると苦しいんだろう。私は隣に座り、ココアを互いの前に置いた。


「はい。なにか食べる?」

「ううん、ありがとう」

「体調、ずっとよくないの?」


青白い顔がうなずいた。メイクでも消しきれないクマが目の下に浮かんでいる。


「それでこんな時間まで働いて、大丈夫?」

「早く帰ることが、どれだけ会社人生の寿命を縮めるか、早織ならわかるでしょ」


硬い声。わかる。だけどその寿命を延ばすことが正解かどうかは、今の私には確信が持てない。


「身体も大事よ」

「べつに病気じゃないもの。定期健診なら行ってるから大丈夫よ」

「……予定日は?」


三月末、と簡潔に真紀は答え、ペットボトルをあけた。飲んでくれたことにほっとした。


「了から聞いたの、編集長が……」


言ってから、真紀の前で"了"と呼んだことがあるかどうか定かでないことに気づいた。そもそも彼との関係を、だれにも言っていなかったはずだ。いや、真紀は気づいていたんだったっけ?
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