冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
長い間会っていない証拠だ。飽きるほど顔を合わせていた数年間が、遠い昔に感じる。

真紀が不思議そうに眉をひそめた。


「ソレイユの狭間さんのこと? あなたたち、まだつきあいがあるの?」


そうか、そこからか。自分は思っていたより、秘密を保つのがうまかったらしい。私はどこから切り出そうか考えながらうなずいた。


「そう」

「まさか早織の子の父親って、彼?」


もう一度うなずいた。真紀の顔に驚きが広がる。


「そうだったのね。どうして結婚……まあいいわ、なにか事情があったのね」

「ちょっとすれ違いがあって、しばらく会ってなかったのよ。もうすぐ入籍するつもりなの。今一緒に暮らしてる。それでこのあたりに越してきたの」

「なるほどね。お嬢ちゃんは二歳くらい?」


私は真紀が、恵の性別をおぼえていたことに感動した。


「もうすぐね」

「私、妊娠自体は計画的なのよ」


真紀が腰をさすりながら、自嘲するように微笑んだ。今日も八センチヒールのパンプス。一度もおなかには手をやっていない。


「……えっ」

「ここ数年ね、子どもを作ろうって夫と話してて、努力してたの。でもなかなかできなくて……きつかった」

「治療とか……?」

「最初の一年でできなかったとき、検査したのよ。ふたりとも異常なし。それが希望のようでいて、行き詰まりにも思えてくるのはさらに一年たった頃ね」


私は驚いた。真紀は結婚は早かったけれど、子どもを考えていると言っていたことはなかったからだ。


「真紀は子どもを欲しがってないんだと思ってた」

「それも本当よ。仕事のほうが大事だったし。でも肉体的なリミットが見えてきたとき、自分がどういう母親になるのか、試してみたいと思ったの。もっと正直に言えば、"自分ならどれだけ優れた、働く母親になれるか"ね」
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