冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
にやっと笑う真紀に、私も笑い返した。強気な彼女らしい。体調や環境や、いろいろなものが許せば、実現できた可能性もある。夢物語とは笑えない。


「いつも"今妊娠したら"っていう設計図を描いてた。後進も育てたから、ここまでは見届けて、ここからは休みに入って、とかね」

「真紀らしいわ」

「机上の空論もいいところよ。ようやく妊娠したと思ったら、自分の身体がついていかなかったの。入院しかけたくらい」


もとからスレンダーな真紀の身体は、首や手首から痛々しいほど肉が落ちている。


「しかたないわ、真紀がなにかに負けたわけじゃない」

「早織が妊娠したとき、ある意味では尊敬して、ある意味では軽蔑したの。今の時代、女が真剣に人生計画しなかったら終わり。なのになにをしているのよ、って。でも現実的に対応する姿を見て、それでこそ早織だとも思った」


──気の毒ね。だけどもとはといえば、あなたの自己管理の甘さが招いたことよ。


あの言葉を、真紀がどんな思いで吐いたのか、やっとわかった。真紀は冷静だけれど、冷酷じゃない。自分に厳しかったからこその言葉だったのだ。


「今は、なにをしてるの?」

「体調がよくなるまでの間だけと思って、代理を立てて、ふたり体制でやってたの。そろそろ回復してきたから、また戻ろうと思ったんだけど……」


真紀がココアをひと口飲む。話を聞いていると、なにか食べてほしいのだけれど、最適な食べ物が思いつかない。


「『すぐ休みに入ろうっていう人に、編集長をされても困る』って、編集部全体から言われたの。ちょうどこの間あなたと会った頃よ」

「そんな……」

「今は編集部でアシスタントをしてる。早織を追い出しておいて、ムシのいい話よね」


私が『あなたがいたら働きづらい』と言われて追われたポジションだ。つまり、真紀にもけっして居心地がいいとはいえないはず……。

真紀は私の心を読んだみたいに、口の端を上げた。


「心配ないわ、みんなは私に雑用を頼むのが、たのしくてしょうがないみたいだから」

「Selfishの編集部って、そんなに腐ってた?」

「女の職場だもの」


どうして女同士であることが、潤滑油として機能しないんだろう。どうして、よりわかり合える方向にいかないんだろう。

簡単だ。そこが戦場だからだ。
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