冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
「プロデューサーには相談したの?」

「がっかりされたわ。私が一生子どもを産まないものと期待してたみたい。『妊娠する計画があったなら話してほしかった』ですって。ほかのお偉方からも言われたわ」


聞いているだけではらわたが煮えくり返りそうだった。妊娠の計画なんて、友人同士でも口にできない生々しいプライバシーを、なぜ簡単に話せと言えるのか。


「彼らって、私が結婚したとき『子どもはまだか?』ってニヤニヤしながら聞いた人たちなわけよ。結婚すれば子どもを産むのが当然、だけど働く女が妊娠したら非常識。どうしろっていうのかしらね。今子作り中ですなんて公の場で言ったらそれこそ顰蹙でしょうに。それとも排卵休暇でもくれるつもりかしら」


吐き捨てた真紀が、ふと顔をゆがめ、視線を落とした。


「でも人のこと言えない。早織、私はあなたの置かれた状況を、まったく理解してなかった。同世代で、同じ女ですらこれよ。ほかにどれだけ理不尽な思いをしたのか……」

「同世代の同性が一番の敵よ、真紀もよくわかってるでしょ。"ほか"なんてたいしたことなかったわ」


私は冗談めかした。真紀がきょとんとし、それからくすっと笑う。


「そうね」

「ねえ、私ね、今……あれっ、ちょっとごめん」


コートのポケットの中で、携帯が震えている。さっき一瞬震えたのを無視したんだった。これは着信だ。画面を見たら、了だった。


「はい」

『すぐに帰ってこられる? 真琴さんから連絡があった。店に来たって!』

「えっ!」

『ジョージと俺で行ってくる。恵を……』

「急いで帰るわ」


私は飲みかけのペットボトルをポケットに入れ、スツールを降りた。


「ごめん、真紀、帰らないといけなくなった。また会える?」

「この近所に住んでるなら、どうやっても会うんじゃない?」


真紀は肩をすくめ、ゆっくり腰を上げる。手を差し伸べたかったけれど、いやがられる気がして、見守るだけに留めた。
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