冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
「狭間と一体化したかったんじゃないですか? 蹴って正解だったなー、了。生涯、親父どもの嫉妬合戦の駒に使われるところだったぜ」


やだやだ、と私も肩をすくめた。男の嫉妬は気まぐれじゃないから恐ろしい。けれど了の心は、違うところにあったようだった。


「俺はいいとしてさ、自分の娘をそう使おうとしたってことだろ」


許せないよな、と自身が傷つけられたみたいな声を出す。私とジョージさんは顔を見合わせ、笑った。


「ほんと人がいいわね」

「こいつはね、今、舞塚に対してプンプンなんですよ。例の男は女性の格好をすることがひそかな趣味だったんですが、それをネタに舞塚に脅されていたようで」

「俺たちからも脅されると思って怯えてた。そんな下衆なまね、だれがするもんか。個人の性癖なんて、絶対に他人が触れちゃいけない部分だよ」


潔癖な了の肩を、「落ち着け」とジョージさんが叩いてなだめる。


「迷惑行為を働いてるって聞いてなければ、私ももう少し同情したんだけど。そもそもいいお客さんなら、まこちゃんも言わなかったはずだしね」

「それはね、お仕置きしてきたから大丈夫。もうバーには来ないよ」


一転してからっとした態度で、了はグラスを揺らした。もしかして顔の痣とスーツの惨状は、取り押さえようとしたからでなく、"お仕置き"の結果か。

この人、私が思うより血の気が多いのかもしれない。


「舞塚の件は任せとけ、突入の段取りを整えておく」


明るい口調でジョージさんが不穏なことを言った。


「頼むよ」

「じゃあ俺は失礼します。早織さん、ワインごちそうさま」

「なにかおつまみでも用意しようと思ってたのに」


立ち去りざま、空のグラスをキッチンカウンターに置き、了をぴっと指さす。


「新婚みたいなもんでしょ。そこまでお邪魔はできません。了、お前、ちゃんと"夫"してるんだろうな? ぼけっと甘えてるなよ!」


了が赤くなった。期待に沿うようなことはなにもしていませんとはさすがに言えないらしい。
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