冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
誠実を通り越して、バカなのかなと思わせるほどの愚直さだった。取引に影響を出すつもりはありません。ひとりの男としてあなたにアプローチしているのです、と自分から言っているのだ。まだ個人的に会ったこともないうちから。

もとより断る気はなかった。仲よくしておいて損はない相手だ。

けれど何度もメールを読み返すうち、私はいつしかそんな打算も忘れ、この不思議な男性と、仕事以外の話をしてみたいと思うようになっていた。




『へえ、さっそくお誘い! いつ会うの?』


翌日、ちょうど真紀とランチをとる時間があったので、私は報告をした。『明後日』という私の返事を聞くと、真紀は眉を上げ、『ただのせっかちか、謙虚で思慮深いかのどちらかね』と端的な評価を下した。

私もまったく同じ感想を抱いた。

何回食事をとったか思い出せないほど毎日忙しくしている人間にとって、さほど重要じゃない用件で先の予定が埋まるのは苦痛だ。もっと大事な予定が、いつ飛び込んでくるとも知れない。予定を変えるとなったら先約の相手に連絡し、さらにはリスケの手間も発生する。

一カ月先のアポをとるということは、相手に対し、『一カ月間その予定を尊重しろ』と強いることでもある。了はおそらく、私たちと同じペースで日々を送っているか、自分と会う用事が私にとって重要なものではないと、正しく理解しているのだと想像できた。


『第一段階は合格ってとこね?』


ベリーショートヘアの真紀は、にやりと笑みを浮かべた。




了が指定してきたのは、都心のバーだった。私も何度か人につれられて行ったことがある。有名なバーテンダーがいて、カクテル通が通う店だ。

了は先に来ていた。カウンターの、入り口のドアが見える席に座っていて、私が入っていくとすぐに気づいた。ぱっと立ち上がり、私を迎えに来る。
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