冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
ジョージさんが去ったあとも、了はグラスを手にぼんやりしていた。


「なにか食べる?」

「ううん……でも、ちょっと考え事したいんだ、だから……」


バツが悪そうに顔を曇らせる了の頬に、キスをした。名誉を汚され、職を奪われ、自分がそこまで大変なときに、"夫"なんて押しつけたりしない。安心して。


「真紀を速水社長に紹介してもいい?」

「神野さんを? もちろんいいよ。もしかして会えたの?」

「偶然ね」


私はさっき知った真紀の情報を、ざっと説明した。了は腿をテーブル代わりに頬杖をつき、「またか」としんみりした声を出した。


「みんな、よくわからないものと戦ってるね」

「了もでしょ」

「俺は、戦う相手がわかってるだけ楽だ」

「休めるときに休んで」


私はもう一度彼の頭にキスをし、自分のグラスをキッチンに片づけた。

寝室では恵が、最後に見たのとまったく違う場所で仰向けになっていた。マットレスの中央まで移動させ、隣に身体を横たえる。

湿った体温と、小さな身体の呼吸の気配。

つられるように眠りに落ちた。


* * *


「狭間さんからも連絡をもらったわ。もちろんお会いするし、喜んで当社にお迎えします。その方が望めばね」


私は速水社長に心からのお礼を言った。


「ありがとうございます。友人にも話してみます」

「まったく、妊娠というものがうわべだけ祝福されながら、依然として社会の自然な営みとして組み込まれる気配がないのは、その陰にセックスがあるからよね──ごめんなさいね、こんな言葉を使って」


執務室のデスクの向こうで、彼女がひらひらと手を振る。私は面食らいながらも、「いえ」と話の続きを期待した。


「男女が快楽にふけった結果だという認識なのよね。自身も子どもを持っている男性までもがそう考えている。セックスで快楽を得るばかりで、愛を与えたことがない証拠よ。子どもは愛の結晶であるべきなのに」
< 120 / 149 >

この作品をシェア

pagetop