冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
その持論に感銘を受けたものの、私のパートナーである了のことをよく知られていると思うと、力強く賛同するのも気恥ずかしい。私は「そう思います」と小さく答えた。


「その方がいらしたら、うちで女性ファッション誌が作れるわ、なんてね」

「すぐに本人の意向を確認します。もしかしたら、今の会社で戦うことを選ぶかもしれません。少なくともあと少しの間は」

「かまわないわよ、その方の今後のキャリアの選択肢に、当社を入れてもらえるだけでお互いメリットしかないわ」

「ですよね、それに……」


私は言いよどんだ。真紀にも逃げ場を、新たな戦場をと思いながら、一方で真逆の考えも頭から離れないのだ。

今の場所で戦い、なにかに勝ってほしい。私は逃げ出したけれど、真紀ならもしかしたら……。

それを聞くと社長は笑った。


「勝手ですよね、根拠もないし、手助けもできないのに」

「そう? ご本人に伝えてみたら? あなたも子どもを産んでから、だれからもなにも期待されなくなって折れたんでしょう、忘れた?」

「あ……!」


無意識にうつむいていた顔を上げた。


「なにが人の力になるかは、わからないものよ」


ローズピンクのカラーグラスの奥で、メイクのばっちり施された瞳が細められた。




夕方、会社を出た私は、なぜか電車でなくジョージさんの車に揺られていた。後部座席で膝の上にPCをのせ、終わらなかった仕事を片づける。

秋吉さんから返信がきた。


【オッケー、さすが! あとは任せておいて!】


ほっと息をつき、お礼のメールを書いてPCを閉じた。そしてそっと隣を盗み見る。


「パパなんかクズ……どこまで狭間さんに粘着する気よ……ざけんな……」


舞塚祥子さんが同乗しているのだ。

きれいな爪をカチカチと前歯にぶつけ、据わった目つきをしている彼女にはなかなか声がかけづらい。
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