冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
私の横で、ジョージさんが「鋭いなー」と低くつぶやいた。
「お前の場合は事実だろう」
「パパが許してくれなかったんじゃない」
「最後のチャンスと設けてやった狭間との見合いも相手にされんで、すべて親のせいか。親不孝のできそこないが」
口を挟むべきじゃないとわかっていても、耐えがたかった。「あのね……」と喉まで出かかったとき、パシャっと水音がした
私の足元にも水滴が降りかかる。何事かと驚いた。いつの間にか、ジョージさんが床の間にあった花瓶を手にしていた。逆さに持った花瓶からは、ぽたぽたと水が垂れている。
「おっと、失礼」
座卓の中央は水びたしになり、花材が散らばっている。舞塚氏がポケットチーフを取り出し、胸元を忌々しそうに拭った。
「さすが狭間の人間は、礼儀を知らんな」
「それは僕のことでしょうか」
ふいに響いた新しい登場人物の声に、全員がはっとした。戸口に了が立っていた。彼は室内をひとわたり見回してから、闖入者に目を丸くしている舞塚氏に微笑みかける。そしてなぜかまた廊下に引っ込んだ。
聞こえてきたのは、風変わりな足音だった。二本の足と、杖の音だ。
「それとも、俺のことか」
低くかすれ、年齢の重みを感じさせる声に、一番早く反応したのは舞塚氏だった。座卓をひっくり返さんばかりの勢いで立ち上がり、蒼白になる。
「……狭間!」
了が譲った場所に、狭間拓氏が立っていた。杖をつき、息子が付き従っていなければ倒れてしまいそうな危うさがあるのに、どうしてかその存在感は室内を制圧した。焦げ茶のスリーピースは痩せた身体から浮き、外套は重そうだ。けれどその目に見据えられた舞塚氏は、射すくめられたように動けなくなっていた。
「好き勝手してくれたな」
楽しそうともいえる口ぶりで、拓氏が言う。
「お前の場合は事実だろう」
「パパが許してくれなかったんじゃない」
「最後のチャンスと設けてやった狭間との見合いも相手にされんで、すべて親のせいか。親不孝のできそこないが」
口を挟むべきじゃないとわかっていても、耐えがたかった。「あのね……」と喉まで出かかったとき、パシャっと水音がした
私の足元にも水滴が降りかかる。何事かと驚いた。いつの間にか、ジョージさんが床の間にあった花瓶を手にしていた。逆さに持った花瓶からは、ぽたぽたと水が垂れている。
「おっと、失礼」
座卓の中央は水びたしになり、花材が散らばっている。舞塚氏がポケットチーフを取り出し、胸元を忌々しそうに拭った。
「さすが狭間の人間は、礼儀を知らんな」
「それは僕のことでしょうか」
ふいに響いた新しい登場人物の声に、全員がはっとした。戸口に了が立っていた。彼は室内をひとわたり見回してから、闖入者に目を丸くしている舞塚氏に微笑みかける。そしてなぜかまた廊下に引っ込んだ。
聞こえてきたのは、風変わりな足音だった。二本の足と、杖の音だ。
「それとも、俺のことか」
低くかすれ、年齢の重みを感じさせる声に、一番早く反応したのは舞塚氏だった。座卓をひっくり返さんばかりの勢いで立ち上がり、蒼白になる。
「……狭間!」
了が譲った場所に、狭間拓氏が立っていた。杖をつき、息子が付き従っていなければ倒れてしまいそうな危うさがあるのに、どうしてかその存在感は室内を制圧した。焦げ茶のスリーピースは痩せた身体から浮き、外套は重そうだ。けれどその目に見据えられた舞塚氏は、射すくめられたように動けなくなっていた。
「好き勝手してくれたな」
楽しそうともいえる口ぶりで、拓氏が言う。