冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
返事を待たず、折り目正しい所作で立ち上がると、ジョージさんは「車を回してきます」と私に言って出ていった。


「早織さん」


了のお父さんに呼びかけられ、私は「はい」と慌ててそちらに向き直った。


「来月の株主総会のあとで、グループの幹部……まあほぼ狭間の人間ですが、それを集めて了の結婚披露をします。簡単な会です。ぜひあなたも」

「えっ……」

「父さん、俺、聞いてない」


そばに付き添っていた了が文句を垂れる。「今言った」とお父さまが子どもみたいに言い返した。


「丈司は私が目をかけている甥です。あれが一刻も早く、了とあなたを一緒にしたほうがいいとせっつく。よく考えろと待ったをかけたのはあいつなのに」

「ジョージは俺にも、とっとと早織と結婚しろってうるさいからね」

「あいつ自身は、すぐに人をお義父さん呼ばわりだからな!」


私は笑いながら、舞塚氏に目を向けた。祥子さんが隣に座って、なにか話していた。仲睦まじくとはいっていなそうだが、険悪でもない。


「早織さん、私と家内は十分考えました。倅をよろしくお願いします」


さっきまで、時代の寵児と呼ばれた経済界のトップスターの顔だったのに、今は父親の顔だ。そうすると了の面影がある。

私はうなずいた。


「ありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いいたします」

「まだわかんないの!? このネズミの脳ミソ親父!!」


怒声が響き渡った。いっせいにそちらを向いた。祥子さんが徳利を握りしめている。父親にぶっかけるのかと思ったら、なんと一気に飲み干した。


「お兄ちゃんだって、やりたくもない仕事やらされてずっと我慢の人生よ! 自分の人生にも満足してないくせに、人の人生に口出さないで!」


娘に胸ぐらをつかまれ、舞塚氏は泡を食っている。
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