冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
「うわ、まずいね」


了が走り出ていった。「ジョージ!」とあせった声が玄関の向こうに消えていき、私は了のお父さんと一緒になって笑った。




「当時、日本でも有数の経営者陣が、次代のトップを育てるために開いてた塾があってね、親父と舞塚さんは、そこの門下生なんだよ」


なるほどね、と再びジョージさんの車の後部座席に収まり、私は得心した。兄弟弟子だったからこその、あのライバル心なのか。

同じ後部座席で、了が「しかも舞塚さんのほうが先輩」と気の毒そうに言う。


「彼もまた、無意味なものと戦ってたケースね」

「父さんが昔から俺に教えたのは、『最大の敵は自分』『尊敬できない奴をライバルと呼ぶな』だ。ニーチェのファンなのかなと思ってたけど、彼みたいな例をずっと見てきたからかもしれないな」


助手席では祥子さんがぐっすり眠っている。ときおり運転席のジョージさんが、彼女にちらっと視線を向ける。


「そうだ、これ、速水社長から預かってきたの」

「俺に?」


私はバッグから三つ折りの封筒を出し、了に渡した。別れ際、渡してほしいと社長が私に預けたものだ。中身は知らない。

了は不思議そうに便箋を取り出し、熱心に読んだあと、「なるほど」と言った。


「どういう内容?」

「熱烈なラブレター」

「は?」


思わず険しい声になったのは、断じて焼きもちを焼いたわけじゃない。わざわざ情報を出し惜しむ必要なんてないでしょと言いたかったからだ。

ジョージさんが声をかけた。


「ヘッドハントだろ」

「正解。どこからだと思う?」


私とジョージさんは思いつくまま、ライバル芸能事務所やグループ内の企業をいくつかあげた。
< 126 / 149 >

この作品をシェア

pagetop