冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
「残念、ちょっと方向性が違う」とにやにやして了が公表したのは、この数年、猛烈な勢いで成長し、世界中に事業を展開しているネットワークサービスの会社の名前だった。


「ええっ! そこと了にどんな関係があるの」

「スカウティングをはじめとした人材コンサルを任せたいって。会社もでかくなると、そういうポジションにスペシャリストを欲しがるんだね。百合さんの人脈もすごいなあ」

「いい話じゃないか、行ってこいよ」

「考えとくよ」


了は便箋を封筒に入れ、上着の内ポケットにしまった。窓の外を眺め、なにか考えている様子の口元は、微笑んでいる。

私は了の手に、自分の手を重ねた。彼がこちらを見た。


「楽しみね、新しい人生」


会う人会う人を魅了する、人懐こい笑顔が、にこっと弾けた。


* * *


「お話を伺えてよかった。今後も伊丹をよろしくお願いします」

「ええ、責任を持って活躍の場をご用意します。あなたも心ゆくまで戦って」


真紀と速水社長が握手をした。


「ごめんなさいね、せっかくの話を」


マノから駅までの間、私は真紀を送っていくことにした。数分の距離だけれど、外は寒風吹きすさぶ冬の空気だ。ひとりで放り出すのは心配だ。


「ううん、速水社長もそこは承知してたから。それでも会いたいって、真紀に興味を持ってたのよ」

「早織がいい職場を見つけたってわかって、安心したわ」


笑う口元から、白い息が散る。お腹はだいぶ大きくなっていて、見るからに重そうだ。
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