冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
「了のおかげなの」

「また雑誌を作りたくなったら教えて。そのときまでに、あの会社に女性の居場所をつくっておくわ。結婚していようがいまいが、子どもがいようがいまいが、だれにもなにも言わせず、好きなだけ働くことができて、能力を正しく評価される居場所をね」

「とんでもないユートピアね」

「言うだけならタダよ」


肩をそびやかす真紀の目線は、いつもより低い。パンプスに高さがないからだ。心境の変化なのか、ただ身体の変化に耐えきれなくなったのかはわからない。わざわざ尋ねるつもりもない。

真紀がやりたいことをできていれば、私はそれでいい。


「じゃあね」


地下鉄の駅への入り口で、真紀は簡単な挨拶を最後にすたすた階段を下りていった。曲がり角でこちらを見上げる。


「産まれたら連絡するわ」

「シッターサービスが必要なら声をかけて。了がなにか考えてるみたいなの」


いつもクールな真紀が、くしゃっと顔を崩して笑った。


「ちゃんと手すりを掴んで下りて。なにがあるかわからないんだから」

「先輩風を吹かせないでちょうだい」

「あなたひとりの身体じゃないのよ!」

「嘆かわしいほどオリジナリティに欠けた台詞だわ」


お互いの姿が見えなくなるまで、私たちはそうやって会話していた。


* * *


パールのピアスをどこへやったんだったか。

大事なものだから、引っ越しのときも手荷物として持ってきたはずなんだけど……。アクセサリー入れにない。クローゼットにしまった?


「あった!」

「もー、ちょっと落ち着きなよ、さおちゃん」


昼前からあちこちひっくり返している私に、まこちゃんがあきれている。
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