冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
了がネクタイをほどきながら、私の隣に腰を下ろす。私は聞き返した。


「会いたがってた?」

「うん。年明けあたりに私的な催しがあるかも。恵もつれて挨拶に行くことになりそう。こればっかりは永遠には避けられない。がんばろう」


ねー、とささやき、恵の頬に口づけする。よく似た目元が向かい合うのを見つめながら、私は言葉を選んだ。


「その、子どもが熱を出したくらいでとか、言われたりは……」


了はぱっと身体を起こし、私を振り返った。目を合わせ、にっこり笑う。


「うちはマノみたいな会社を傘下に持って、そこにあんな有能な女性社長を置くグループだよ」

「あ……」

「グループじゅうで女性が活躍してるから、父さんをはじめみんな、優秀な女性を部下や同僚に持った経験がある。早織の心苦しさを理解してたよ。それで俺、そばにいてやれって宴会を免除されて、早く帰ってきたんだ」


手が伸びてきて、私の頬をなでた。


「休むって決めたとき、勇気がいったよね。決断を任せちゃってごめん」

「ううん……」

「それに、俺も朝、恵の様子を見るべきだった」


反省するように、了の目が下方に落ちる。それから彼は苦笑した。


「こういうときは休むべきだって決まっていれば楽なのにね。親は自分で決めなきゃいけないし、そうすると今度は、『好きで休んでる』って目で見られる」


肩をすくめ、「今日気づいたよ」としょげた声を出し、また私を見る。


「これが早織が戦ってたものなんだね」


──私、思い出したの。


結婚することで、なにが欲しかったのか。
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