冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
Born to be…
ボアの上着で着ぶくれた恵が、広場の石畳の舞う枯葉を追いかけている。
二月の区役所は静かで、おっとりと構えた佇まいが、新たなはじまりの日にはちょうどいいのどかさだと感じた。
一時間半ほど前、三人でここの入り口を入ったときと、なにひとつ変わらない自分であるようでいて、別人になった気もする。
たかが紙切れ、されど紙切れだ。
スーツの上に黒いコートを羽織った了が、恵を見守りながら、白い息を吐いた。
「仕事は伊丹の姓で続けるの?」
「うん。次に会社を移るときが来たら、そのときに狭間を名乗るかもしれない」
「長い道のりだったなー」
解放感たっぷりに、了がうーんと両手をあげて伸びをする。「どこから数えてるの?」と尋ねると、「そりゃあもちろん」といたずらっぽく笑んだ。
「俺が男らしく熱烈なアプローチをはじめた、四年前から」
「男らしい?」
今思い出しても恥ずかしくなるようなあの純情な歩み寄りが?
私の怪訝そうな声は無視し、了は「おいで」と恵を招き寄せた。駆けてきて、「抱っこ」と両手を広げた恵に、了は微笑みかけ、首を振る。
「抱っこはちょっと待って」
そしてコートのポケットを探り、小さな箱を取り出した。ビロードのアイスブルーの箱を、私に向けて開いてみせる。銀色の指輪がふたつ並んでいた。
「いつの間にできてたの?」
「気づかなかったでしょ」
ふふ、と得意げに笑っている。年明け、了の両親や親族に挨拶を済ませたあとオーダーした指輪だ。私にばれないよう、こっそりお店に受け取りに行っていたらしい。
「はめてあげる。手を貸して」
私は左手を出した。了がその手を取り、さっと指にキスをしてから、指輪をはめる。緩やかなカーブを描くプラチナの指輪は、当然ながらぴったりで、ただの装飾具ではない、独特の雰囲気を手に与えた。