冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
「真紀がつけてたの、よく見てたのよ」

「結婚指輪って、夫婦の趣味が出ておもしろいよね」

「私もつけてあげる」


私たちを恵が興味津々に見上げている。そんなに観察する機会もなかった了の手が珍しくて、指輪を通したあとも、長くて男らしい指やきれいな肌をじっくり眺めた。同時に自分の手も目に入った。

短く切った爪。指輪の存在がますます、"あなたが女として戦える期間は終わりました"と告げているような気がする。


「今の私、了から見て、どう?」

「きれいだよ」

「そういうんじゃなくて。いつもみたいに分析してよ」


了は苦笑し、私の手を握り返して、少し考え込む様子を見せた。


「くつろげる場所をみつけて休戦中。でもいつか戦場に戻るのもいいって爪を研いでる。昔の自分とは違うってわかってる。なくしたものもあれば手に入れたものもある。今はその整理をしてる」

「それ、ほんとに外見だけを参考にしてる?」


知りすぎていてずるいんじゃないだろうか。了は「もちろん、してるよ」ともっともらしくうなずいた。


「最近は、大事な人から愛されて、すごく満たされてるってこともわかる」

「外見から? 嘘ばっかり!」


手をふりほどいた。了は楽しそうに笑い、恵を抱き上げた。


「さあ、ごはん食べに行こう。恵、なに食べたい?」

「まこちゃんのオムライス」


実現不可能な願いに、そうかー、と了が困り顔になる。バースデーパーティにまこちゃんが作った特大オムライスが、恵は忘れられないのだ。


「まこちゃんが聞いたら喜ぶわ」

「恵、違う人が作ったオムライスでもいい?」


恵はよく意味のわかっていない顔で、「いい」とうなずいた。私たちは駐車場に向かって歩き出した。
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