冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
受け取る前に、アイスをスプーンですくって差し出す。隣に腰を下ろしながら、了が口を開け、それをくわえた。引き抜かれるスプーンを追いかけるように、了がこちらへ身体を倒し、私の唇にかぶりついた。了の口の中のアイスは、まだ冷たかった。


『ワイン、こぼれちゃうよ』

『ウォーキングで体幹鍛えられてるから大丈夫』

『何年前の話よ?』


お互いの唇の間で溶けたアイスをなめあって笑う。了が言っているのは歩行運動のことじゃない、モデルのウォーキングのことだ。

学生時代、当時のソレイユのプロデューサーからぜひにと請われ、ファッションモデルを務めたことがあったらしい。『全然ダメ、向いてなかった』と本人は苦笑いしていたが、私は気になって当時の画像を検索してみた。

もう廃刊になったメンズファッション誌のグラビアがいくつか出てきた。はたちそこそこの了は、すばらしく美しい青年だった。小さな顔に長い脚、男らしい首と肩。男性的な色気と、了らしいあどけなさが共存している。

ただ、本人が居心地悪く思っているのが、写真にも出てしまっていた。微笑ましいが、モデルとしては失格だ。

私がその場にいたら、もっといい表情を引き出してみせたのに。こういう自意識の低いタイプは、磨けば化ける。


『今じゃ立派な運動不足でしょ、社長さん』


このときには了はもう社長だった。お腹をくすぐると、うわっと笑い声をあげて身体を折る。


『やめろよ、ほんとにこぼしちゃうよ』

『今年の謝恩会は、なにを着ようかなあ』


真紀とのバランスも大事だから、相談して決めないと。そんなことを考えていたら、了がグラスのひとつを私に持たせ、もう一方を口にあてて、ソファにまっすぐ座り直した。


『どうしたの?』

『……あのホテル、バーがいいんだよね。ずっと前に、銀座にあった老舗のバーを移転させたんだよ』

『謝恩会を開くホテルのこと?』
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