冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
「すごい、うれしい。ありがとう」

「食器、懐かしいのばっかりだった」

「ほとんど持ってきたの。もともとそんなに数もなかったし」


こういう生活になってから、なによりも私を助けたのは、家事が苦手じゃないという自分の性分だった。昔から、出かけるほど体力のない休日は、掃除と料理で気分転換をしていた。

了もそういうタイプだった。お互いの家で、よく一緒に夜食をつくった。

私たちは麦茶で乾杯し、食事に箸をつけた。普段、自分がつくった惣菜は見飽きてしまうので食べないんだけれど、これだけ見た目が違うと気分も変わる。


「服は?」

「必要なぶんだけ残して、あとは売ったり捨てたり」

「どういう基準で残した?」

「だから、必要なぶんだけ……」


変な質問だな、と眉をひそめて了を見た。了はまっすぐ見返してきた。


「俺とはじめて会ったときの服は、捨てた?」


返答に詰まった。了の目に、確信のようなものが宿る。

捨てられなかった。着る機会なんて二度とないに決まっている服なのに。

了が取り皿とお箸をテーブルに置き、身体ごとこちらに向き直った。


「ちゃんと答えてね。恵は俺の子だよね?」


自分の唇が震えだすのを感じた。了は言葉を重ねた。


「俺と、早織の子だよね?」


この気持ちはなんだろう。罪を犯して隠れていた人間が、ようやく捕まえてもらったときの心境って、こういうのかもしれない。

隠れていたかった。だけど見つかってほっとした。

鼻の奥がつんと痛み、涙が出てきた。
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