冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
「した。シングルマザーは保育園にもすぐ入れたし、恵も育てやすい子で、私の身体の回復も早かった。すごく恵まれてて、順調だったの。だから過信したの。私はこの調子で、仕事と子育てを両立できるって」
「なにがあったか話して」
「真紀は私を副編集長のまま復職させてくれたの。あちこち動き回る編集スタッフより、デスクにいる時間の長い副編のほうがいいだろうって。ありがたかった」
「うん」
「でもすぐ破綻した。恵はよくお腹を壊すようになって、保育園からはストレスのせいだろうと。園にいる時間を短くしてあげるべきだって言われた」
お腹を壊した状態では、保育園は預かってくれない。お医者さんに見せると、ストレスというより体質とのことだった。いずれにせよ、私は働く時間を短縮することを余儀なくされた。
副編集長のポジションは自分から降りさせてもらった。十六時に会社から消える副編なんていない。編集部の片隅で細々と、企画補佐のようなものをする日々が始まった。
ある日、真紀に呼ばれて会議室に行くと、プロデューサーもそこにいた。五十代の男性で、複数の雑誌を司る、私たちのボスだ。
真紀が静かに切り出した。
『このまま編集部にいてもらうのは、お互いによくないと思うの』
『……私、扱いづらい?』
『正直言うとね。この間まで副編だったあなたに、雑務を頼むのはみんな気が引けるわ。今の副編も、あなたがいたらやりづらい』
なにも言えなかった。そのとおりだったからだ。
『総務に行ってもらうことにしたの。時短で働いている女性もいるし、変則的な仕事もない。やりやすいんじゃないかしら』
そこでプロデューサーが口を開いた。
『僕にも三人の子どもがいるからわかる。お母さんというのは本当に大変だよ。今は無理せず、仕事は二の次にして、お子さんのそばにいてあげたらどうかな。子どもが手を離れたら、また編集部に戻ってくればいい』
同情的な口調だった。
吐き気がするほど悔しかった。今まで積み上げたキャリア、評価。それらを私の人生から捨て去れと、どうして他人に言われなきゃいけないのか。さもそれが私や娘のためであるような言いかたで。
だけど一方で、自分になにを言う権利もないこともわかっていた。たしかにそのとおりなんだろう。私は仕事をあきらめるべきなのだ。母親なんだから。
『……はい』
私は総務部に異動になった。
「なにがあったか話して」
「真紀は私を副編集長のまま復職させてくれたの。あちこち動き回る編集スタッフより、デスクにいる時間の長い副編のほうがいいだろうって。ありがたかった」
「うん」
「でもすぐ破綻した。恵はよくお腹を壊すようになって、保育園からはストレスのせいだろうと。園にいる時間を短くしてあげるべきだって言われた」
お腹を壊した状態では、保育園は預かってくれない。お医者さんに見せると、ストレスというより体質とのことだった。いずれにせよ、私は働く時間を短縮することを余儀なくされた。
副編集長のポジションは自分から降りさせてもらった。十六時に会社から消える副編なんていない。編集部の片隅で細々と、企画補佐のようなものをする日々が始まった。
ある日、真紀に呼ばれて会議室に行くと、プロデューサーもそこにいた。五十代の男性で、複数の雑誌を司る、私たちのボスだ。
真紀が静かに切り出した。
『このまま編集部にいてもらうのは、お互いによくないと思うの』
『……私、扱いづらい?』
『正直言うとね。この間まで副編だったあなたに、雑務を頼むのはみんな気が引けるわ。今の副編も、あなたがいたらやりづらい』
なにも言えなかった。そのとおりだったからだ。
『総務に行ってもらうことにしたの。時短で働いている女性もいるし、変則的な仕事もない。やりやすいんじゃないかしら』
そこでプロデューサーが口を開いた。
『僕にも三人の子どもがいるからわかる。お母さんというのは本当に大変だよ。今は無理せず、仕事は二の次にして、お子さんのそばにいてあげたらどうかな。子どもが手を離れたら、また編集部に戻ってくればいい』
同情的な口調だった。
吐き気がするほど悔しかった。今まで積み上げたキャリア、評価。それらを私の人生から捨て去れと、どうして他人に言われなきゃいけないのか。さもそれが私や娘のためであるような言いかたで。
だけど一方で、自分になにを言う権利もないこともわかっていた。たしかにそのとおりなんだろう。私は仕事をあきらめるべきなのだ。母親なんだから。
『……はい』
私は総務部に異動になった。