冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
「……それで?」

「やるからには一所懸命やろうと思ったんだけど、総務部では仕事をもらえなかったの。編集部は偉そうにしてるせいで、他部署から好かれてなかったから。いいはけ口にされちゃって」

「仕事をもらえなかった? 全然?」

「うん。毎日することがなくて、意味もなく手近な資料を読んだりしてた。だれかを手伝おうとすると断られるの。仕事がほしいって上司に言っても、『副編集長さまにお願いすることなんてないですよ』って笑われるだけ。それでも収入があるだけでありがたいし、がんばりたかったんだけど……」


落ち着いてきたと思っていた涙が、またこぼれた。


「無理だった。これ以上プライドがずたずたになったら、頭がおかしくなるって思った。だからその前に辞めたの」

「それはプライドじゃないよ。人としての、最低限の自尊心だよ。早織の会社の人たちは、それを踏みにじったんだ」

「でも、結局は私が悪いの」

「悪いってなにが?」


了の肩に顔を埋めた。ぎゅっと抱きしめてくれる。

総務部に行ってから一度、真紀に相談した。編集部に戻りたいと言ったわけじゃない。ただだれかに現状を知ってもらいたかっただけだ。

真紀は侮蔑のこもった目つきを私に投げた。


『気の毒ね。だけどもとはといえば、あなたの自己管理の甘さが招いたことよ』


これが最後の引き金だった。この日のうちに退職を決めた。

わかっている、私が悪い。無計画に妊娠した私が悪い。だからどんな状況でも耐えて当然。そのとおりだ。

やりたいことができるなんて思うな。人並みの尊敬や評価を得られる立場だと思うな。私は会社にとっては厄介者で、女同士からしたら恥さらしだ。

わかってる。わかってる。わかってる。


「わかってる……!」

「早織!」


私は無意識のうちに、了の胸を叩いていた。了が必死に私を抱きしめて、なだめようとする。
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