冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
了はもしかしたら事前に、私の働く姿を見に来ていたのかもしれない。疑問を投げかけるようなこともせず、「わかるよ」と心からの様子でうなずいた。
人々の生活に食を提供する仕事。つくるそばから買っていく人がいて、これがおいしかった、次はこういうものが欲しいと投書が来る。
現実ではお目にかかったことがないような"強くていい女"の幻想を見せていたそれまでの仕事とは、真逆の世界。
収入は激減したけれど、支出も減った。気持ちに余裕ができたことで、恵と過ごすのも楽しくなった。正直、娘を、自分の人生の上から生涯どかすことのできない重石だと感じそうになっていたこともあったのに。
そういう、ぴりぴりした自分から脱却できたことが、なによりもうれしい。
「ここでなら、誰とも争わず、誰の目も気にせず生きられるの。恵とふたりで」
うつむいて、ぽつりと吐き出した私の髪を、了がなでた。ヘアゴムの跡がしっかりついた、しばらくカットしていない髪。
「幸せなんだね」
「うん」
「そこに、俺の入る余地は、ある?」
顔を上げた。三年ぶんの時を経た、了の顔がある。ほとんど変わっていない。よみがえってくる、甘えたり甘やかしたりを、お互いにくり返した日々。
「……と、浸ったところで思い出したわ」
我に返り、了のネクタイを掴んで引っ張った。
「なに今ごろのこのこ現れてんのよ。なにしてたわけ。なにが法的手段よ」
「待って、待って。俺のほうも説明するから」
青くなって、了があたふたしだす。
玄関のドアがノックされた。返事をする前に、来訪者は鍵を開け、静かに入ってきた。恵が眠っている時間なのを知っているのだ。
人々の生活に食を提供する仕事。つくるそばから買っていく人がいて、これがおいしかった、次はこういうものが欲しいと投書が来る。
現実ではお目にかかったことがないような"強くていい女"の幻想を見せていたそれまでの仕事とは、真逆の世界。
収入は激減したけれど、支出も減った。気持ちに余裕ができたことで、恵と過ごすのも楽しくなった。正直、娘を、自分の人生の上から生涯どかすことのできない重石だと感じそうになっていたこともあったのに。
そういう、ぴりぴりした自分から脱却できたことが、なによりもうれしい。
「ここでなら、誰とも争わず、誰の目も気にせず生きられるの。恵とふたりで」
うつむいて、ぽつりと吐き出した私の髪を、了がなでた。ヘアゴムの跡がしっかりついた、しばらくカットしていない髪。
「幸せなんだね」
「うん」
「そこに、俺の入る余地は、ある?」
顔を上げた。三年ぶんの時を経た、了の顔がある。ほとんど変わっていない。よみがえってくる、甘えたり甘やかしたりを、お互いにくり返した日々。
「……と、浸ったところで思い出したわ」
我に返り、了のネクタイを掴んで引っ張った。
「なに今ごろのこのこ現れてんのよ。なにしてたわけ。なにが法的手段よ」
「待って、待って。俺のほうも説明するから」
青くなって、了があたふたしだす。
玄関のドアがノックされた。返事をする前に、来訪者は鍵を開け、静かに入ってきた。恵が眠っている時間なのを知っているのだ。