冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
「支度できた?」


恵を抱っこした了が、ひょいとのぞいた。彼もきっちりスリーピースのスーツだ。その顔が私を見て輝く。


「ママ、強そうでかっこいいねー、恵」


強そうってなに!


「きれいとか言ってよ、久々に着飾ったんだから!」


以前の私の基準なら、とても"着飾った"うちに入らないけれど、ここ数年では最高に気を使った装いだ。

憤慨した私に、了は笑った。


「着飾ってなくても、きれいだよ」


片手に恵を抱き、片手で私の手をとる。私はとっさにその手を引っ込めた。

了が知っている私の手とは違う。爪は短く、丸く、炊事のおかげでところどころ二枚爪になっている。スジも目立つ。

けれど了は、もう一度手を差し出し、背中に隠した手を引っ張り出して握った。

朗らかさを宿した瞳が、にこりと微笑む。


「行こう」


その声に反応して、恵が「おでかけ!」と片手をあげた。




了に返事をしてから二週間。

引っ越しの準備、入籍の準備、そしてなにより、狭間家への挨拶の準備。これらで日々はあっという間に過ぎた。


「これ、買ったの?」

「そうだよ、もちろん」


近くのコインパーキングに停めてあった了の車には、真新しいチャイルドシートがセットされていた。後部座席のそれを見て、私はあらためて了の本気を感じた。
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