冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
「この子、はじめてなんだけど、大丈夫かしら」

「隣に乗ってあげてよ。おもちゃもあるよ。恵、どれが好き?」


トランクから了が取り出した箱には、布の本やぬいぐるみが詰まっている。

私はため息をついた。これは甘々な父親になりそうだ。

乗せかたもしっかり予習してきたらしい了のおかげで、恵はご機嫌でチャイルドシートに収まり、私は反対側から隣に乗った。

運転席に座った了が、ルームミラー越しに声をかける。


「ベルトした? 出すよ」


うん、と答えながら、不思議な気持ちに襲われた。

三人のこの空間。戸籍上はまだ違うけれど、これは私が幼い頃から憧れていた、"家族"だ。

負け惜しみでも強がりでもなく、これまでだって幸せだった。

そのささやかな幸せの上に、もっとぜいたくな幸せが降りそそごうとしている。

それは私の手には余りそうで、怯む気持ちもあるけれど、一緒に受け止めるよ、と了がその手を握ってくれる。

車がゲートをくぐり、走り出す。

ついこの間まで、予想もできなかった明日へ向かって。




……なんて言いつつも、やっぱりそれなりに緊張していたわけなんだけれども、了の両親は、私と恵を歓待した。それはもう、全力で。


「めぐちゃん〜、ババよ〜!」

「いや早織さん、この愚息から事情は聞きました。これまで、どれほど心細かったか、お察しします。本当にお詫びのしようもない!」


都心の高級住宅街の一角。現代風の大きな四角い家が了の実家だった。

客間はおそらく、杖が手放せなくなったお父さまのために改装したと思われる広々とした洋室で、私は浴びせられる歓迎と謝罪の言葉に圧倒されていた。
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