冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
05. 山あり谷あり


帰りの車中、了は無口になっていた。

私はがっかり半分、まあこんなものよねというあきらめ半分の心境だ。

チャイルドシートの中で眠ってしまった恵の額に、汗が浮かんでいるのを見つけ、ガーゼでそっと拭った。


『双方、時間を置いて頭を冷やしたほうがいい』


了を義兄上と呼んだ男性がそう言ったとき、了はどういうわけか、聞き分けよく『そっか』と了承した。ただ両親に『あきらめないから。また日を改めて来るよ』と約束することは忘れなかった。

夫妻は名残惜しそうに恵を私に返し、どうするのが一番いいのか決めきれていない様子で、『申し訳ない』と苦渋に満ちた表情を見せた。


「さっきの、どういう関係の方?」


運転席のうしろに座っている私からは、了がルームミラーでこちらをちらっと見たのがわかった。彼がハンドルを握り直す。


「今は狭間丈司(じょうじ)っていってね、もとは守衛(もりえ)っていう苗字なんだけど……あれ、ちょっとごめん」


赤信号で停止したとき、コンソールパネルにくっつけてある了の携帯が鳴った。画面には『ジョージ』と出ている。十中八九、今聞いた『狭間丈司』氏だろう。

字面を見て、なんとなくほっとした。敵対関係にあるのかと思ったけれど、違うらしい。ニックネームで登録するくらいにはくだけた仲なのだ、きっと。

想像を裏打ちするように、了の応答は「だれが失恋に打ちひしがれてたって?」というふてくされた文句だった。


『悪かったって。ほかにそれらしい理由を思いつかなかったんだよ。それより、うしろ、うしろ』

「え?」


携帯からの声に反応し、了が再びルームミラーに目を向ける。私もうしろを見た。

黒いイタリアメーカーのスポーツカーがぴったりつけており、運転席ではジョージ氏が、進行方向の右手前方を指さしていた。広い駐車場をかまえた、大衆的な食事処がある。

了は少し考える様子を見せ、口を開いた。


「子どもが寝てるんだ。起こしたくない。うちまでついてきて」


携帯からはすぐに『了解』と返事があった。

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