冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
「悪いねー、お邪魔して」
謝りながらジョージ氏が部屋に上がってきた。
「来客用の駐車スペース、わかった?」
「コンシェルジュが案内してくれたよ。ハイ、恵ちゃーん」
何度か来ているおかげで、了のマンションのリビングはすっかり幼児仕様だ。手の届く高さには小物や割れ物はないし、テーブルやテレビボードの角にはカバーがついている。
ジョージ氏が手を振ってくれたものの、恵は床に敷いたバスタオルの上でぐっすり眠っている。そばに座る私に、ジョージ氏が手を差し出した。
「ご挨拶が遅れました。了の従弟兼、幼なじみ兼、義弟の丈司です」
「……盛りだくさんですね」
その手を握った。乾いていて温かい、男性的な骨格の手だった。
「僕に対して敬語はやめてください、未来の義姉さん」
三人分の飲み物を用意していた了が、グラスののったトレーを手に戻ってきた。上着を脱ぎ、ベスト姿になっている。
「俺と早織が結婚したとして、ほんとにお前の姉ってことになるのかなあ?」
「それはたしかに疑問だね」
ジョージ氏がトレーからグラスを取り上げ、私に手渡すと優雅におじぎをした。仕草がいちいち大仰だ。けれどそれがしっくりなじむだけの容姿を持っている。
「ジョージさんと了が義兄弟というのは?」
私はアイスコーヒーを飲みながら尋ねた。了もグラスを手に、となりに座った。
「俺の妹と結婚したんだ。ジョージが狭間姓になってね。でもすぐに離婚した」
「苗字を戻さなかったということ?」
今度は対面に腰を下ろしたジョージ氏に聞いた。彼はにっこり笑ってうなずいた。