冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
了から受け取った書類には、私たちが購入を検討していたマンションの外観が写っていた。それからメールの文章のような、私的な文面の記載がある。だれかが了の結婚について、ゴシップ誌にリークしたことがそこからわかった。

私は書類を封筒に戻した。


「送り主に心当たりはあるの?」

「あるような、ないような……。ジョージは知ってるの?」


ジョージさんは、「残念ながら」と両手を挙げた。


「ここの編集長とは縁があってね、お宅の話ですよねって耳打ちしてくれたんだ。持ち込まれた情報はこれだけじゃない。ただしそれがなにかまでは教えてもらえなかった」

「まあ、これが彼らの飯のタネなんだしね」


割りきったふうに言いながらも、了は一瞬、視線を恵の寝顔に落とした。口を引き結んだ顔つきに表れているのは、守るもののできた人の苦悩かもしれない。

これは勘ですが、とジョージさんが口を開いた。


「了の結婚がネタになっている時点で、会社でなくやはり了個人に恨みがあるだれかだと思うんです。もっと言うと、そのまんま”結婚”にまつわる恨み」

「俺が蹴った相手か……」


天井を仰いて、了が力ない声を出す。


「お見合いなんて、すべてが成功するわけじゃないでしょうに。逆恨みもいいところだわ」

「人がなにに命を懸けているかは、他人にはわからないものですよ」


はっと顔を上げた先にあったのは、他意のなさそうな微笑みだった。なにも言えなくなった私にはかまわず、ジョージさんは了に向かって肩をすくめた。


「ま、こんなめんどくさいことになる相手と間違って結婚しようものなら一生が地獄と化してたわけだし、蹴って正解だったってことだな」

「なにを正解というかだけどね」

「とにかくお前は、しばらく身辺に注意したほうがいい。入籍も……」

「時期を見直すよ」

「当面、三人で出歩くのも」


了が両手で顔を覆った。


「控えなきゃだよねー、あー、夢だったのに……」

「未来の妻と子をカメラの前にさらすよりマシだ。それにお義父さんたちにも、なるべくなら知らせたくない話だろ」
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