冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
再会して、はじめてのキス。

車の中でした、あの一度目のキスと同じように、優しく、丁寧で了らしい。

変わらない唇の感触。温度。途中で軽く食むくせ。名残惜しそうに離れていく余韻も、あの頃のまま。

了は微笑んでいた。


「俺ね、怒ってるんだ」

「なにに?」

「早織に、なにもかもを捨てなきゃいけないと思わせたなにかに。もちろん、俺自身も含めてね」


両手がゆっくりと、私の耳や顔をなでる。どれくらいぶりだろう、だれかにこんなふうに触れてもらうのは。


「自分のことで怒るのは疲れるし病むから、早織は今のままでいい。でも俺はずっと怒り続けるよ。お前の夫としてね。それから何度だって教えてあげる」

「なにを?」


了はにやっと口の端を上げた。


「お前にプロポーズしてるのは、どこのだれかってこと」


もらった名刺に思わず目を落とし、笑ってしまった。うん、そうね。なにもかもが、さすがソレイユグループの御曹司だ。


「そうして。じゃないとたまに忘れちゃうから」

「こんなことしかできないけど」

「じゅうぶんよ」


彼の腰に手を回すと、了はすぐに合図を受け取り、もう一度甘いキスをくれた。さっきより力強く、熱いキス。

了の両腕が背中に回り、私を抱きしめる。ほんの一瞬、時間も場所も忘れて、きつく抱き合って、お互いに懐かしい唇を味わった。


「それじゃ、行くわ」

「連絡する。気をつけて」


最後に軽く、唇をぶつける。ああ、了だ。何度こんな別れの挨拶をしただろう。
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