冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
「ほんとに待ってる……」
「俺、約束したら、やぶらないし」
夕方五時半、仕事を終えてスーパーを出ると、カートの返却場所に了が立っていた。手にはこの店の袋を提げている。
私の視線に気づいたのか、「あ」ときまり悪そうに、その中身を見せた。
「早織がつくった惣菜、せっかくだから食いたいと思って……でも、どれだかわからなかったから、とりあえず選んだ」
私の沈黙を、どう受け取ったのか、了がもじもじする。会わない間に、彼は三十路を迎えたはずなんだけれど。それでこの素直さ。
私は袋の中身をチェックし、店内に戻り、自分が担当したお惣菜をいくつか購入して戻ってきた。
「そっちには私がつくったの入ってないから。こっちと交換して」
「え、ひとつも入ってないの?」
「揚げ物ばっかり選ぶからよ。今日は私、フライヤー担当じゃなかったの。相変わらず好みが偏ってるのね」
「これ、偏ってる?」
了の眉尻が下がる。唐揚げ弁当、単品のカツ数種類、天丼。彼なりに幅広く手に取ったつもりなんだろう。この食の好みで、よくあんなスリムな体型を保っていられるものだ。基礎代謝が中高生並みなのだ、きっと。
「急ぐから、行きましょう」
「どこに?」
保育園以外のどこがあるのよ、と怒鳴りたくなったのをこらえた。九月も終わりに近づいているというのに、夏の日差しはまだまだ健在だ。私は了を連れて、住宅街のほうへと入っていった。
「俺も保育園の中を見たい」と訴える了に、事前登録されていない人間は不審者とみなされることを説明し、門の外で待つよう指示した。
了は不満そうな顔をしつつも従順に、邪魔にならない場所によけて立っている。園児の父親としては身ぎれいすぎるその姿を横目に見ながら、人目を引かないうちに急いで戻らなければと、私は園内に駆け込んだ。
「まま!」
保育室の引き戸を開けたとたん、娘の恵(めぐむ)が転がるように駆けてきた。
「お疲れさま、帰ろっか」
私はさらさらしたボブの髪とぷくぷくのほっぺたをなで回し、汚れ物などの荷物をまとめはじめる。頼もしく明るい保育士の先生が声をかけた。