冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
「経験から言わせていただくと、のびのび働いている子持ちの女性は、シングル、別居中、実親と二世帯の順に多いの。子供の数は関係ないわ。あるのは環境に占める夫の割合。それが増えるほど、のびのびできないというわけよ。いったいどういうことなのかしらね」


理解不能とばかりに、ネイルの施された両手を広げてみせる。

私はぽかんとしたあとで、笑った。


「彼は大丈夫です。それに今後、彼のような男性は増えるでしょう」


レンズの奥で、色の薄い瞳が細められ、つやつやした唇が笑みを作った。


「ではここでやりがいを見つけられたら、彼のおかげね。夫に感謝しながら働けるのはお互いに幸せなことだわ。信じてちょうだい、あなたの未来は明るいし、私の仕事はわが社のすべての従業員がそうであるよう、全力を尽くすことです」


きっぱり言い切ると手を伸ばし、握手を求めてきた。その手を握ったとき、まさしく彼女の言ったとおり、目の前がワントーン明るくなった気がした。




「そっかあ、おもしろい社長さんだね」


まこちゃんが恵に絵を描いてやりながら、うれしそうに笑う。仕事のあとでマノに行った私の代わりに、保育園に迎えに行ってくれたのだ。

私は部屋着に着替え、これから出勤するまこちゃんのために、簡単な食事を作ることにした。


「勤務体系もかなり自由が利くみたいで」

「すぐ移るの?」

「ううん、今の職場もちゃんと引き継いでからやめたいし。一か月、時間をもらったの。『もちろんいいわ、責任を果たしてきてください』だって」


冷蔵庫から卵と食パンを取り出す。まこちゃんの好きな卵焼きサンドにしよう。


『今すぐだろうが半年後だろうが歓迎よ。いつだって人は欲しいの。人がいたら、それだけできることが増えるもの』


速水社長はそう言って笑った。"人が欲しい"イコール"手が足りない"ではないのだ。心から自分の会社を愛する経営者だと感じた。
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