冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
「たのしみだね」

「そうなんだけどね。引っ越しのタイミングもわからなくなったし、引っ越し先が決まらないと保育園も探せないし、そもそも結婚したら保育園に入れる保証もなくなる……考えることは山積みなの」


味つけをした卵液を、小さめの四角い容器に入れ、レンジにかける。その間にマヨネーズとからしを合わせ、食パンに塗った。

居間のほうから「あれー?」とまこちゃんの声がした。


「了くんから聞いてない? もしかしてサプライズにする気かな」

「なにを?」


半熟になった卵をかき混ぜ、もう一度レンジに入れる。


「私をシッターとして雇わせてほしいって、連絡をくれたんだよ」


唖然として、菜箸を落としそうになった。外廊下のほうを向いている流しの前で、身体をねじって居間を振り返る。


「え?」


まこちゃんがこちらを見て、にこっと笑った。


「さおちゃんがお仕事で忙しくなったり、保育園に入れなかったり、いろいろ可能性があるでしょ。そういうときのために、私と契約したいって。すごくきちんとした契約書も持ってきてくれたよ」

「でも、まこちゃん、昼も仕事が……」

「減らすことにした。だってついに夢が叶うんだよ!」


いつの間にか加熱が終了していたことに気づき、慌てて卵を取り出す。

まこちゃんは保育士を目指していた。短大に通い、資格も持っている。だけど保育士として働くことはできなかった。

採用試験に受からなかったからだ。


『またまた、男か女かはっきりして、って言われちゃった』


えへへ、と力なく笑って面接から帰ってくるまこちゃんを、何度も見た。やがてまこちゃんは受験をやめ、夜はバーで働き、昼はあちこちでアルバイトをして暮らすようになった。
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