冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
06. ソレイユの御曹司


「よかった。さすが百合さん、仕事早いなあ」


リビングのラグの上で恵をひざに乗せ、自分の昼食を分け与えながら了が言う。一緒に過ごす時間を重ねるうち、恵もすっかり懐いた。

速水社長との面会から数日がたったある日、スーパーでの仕事のシフト変更に応じた影響で、急に翌日が休みになった。私はなんとなく、了に連絡することを思いついた。


『恵をつれてうちにおいでよ。夕方までなら、家でも仕事ができる』


というわけで保育園を休ませ、了が手配してくれたタクシーに三十分ほど揺られ、彼のマンションを訪れた。

お昼は用意しておくとのことだったので、了が作るのかなと思ったら、お店みたいな定食が並んでいたからびっくりした。いきつけの定食屋さんが届けてくれるのだそうだ。恵も一緒に食べられるよう、柔らかい煮物と煮魚を特別に用意してくれたらしい。

先に食べ終えた私は、アイスティを用意しようとキッチンへ立った。だれかが恵の面倒を見てくれると、こんなにもスムーズに自分の食事が進む。感動だ。


「インターナショナルで、どういう仕事をなさってたの?」

「俺のふたり前の社長だよ。うちはテレビタレントをほとんど扱ってないんだけど、あの人の時代にその方針を固めたんだ」

「テレビ局や代理店にへいこらするタイプの方じゃなさそうだものね」

「しいたけ食べさせて平気?」

「その半分の大きさにしてから口に入れてあげて」


了解、と半分かじり、残りを恵に食べさせる。微笑ましい図に頬が緩むのを自覚しながら、恵の飲み物も用意しようとして、気づいた。


「ストローマグを持ってくるの忘れちゃった。この家、ストローある?」

「ないなあ。コップじゃだめ?」

「飲めなくはないんだけど……すごくこぼすと思う」

「こぼしていいよ」


了が笑いながら、こちらに手を差し出した。私は少し迷い、洗面所用のプラスチックのコップに水を注ぎ、渡した。


「ほら、飲めてるよ。あー!」

「あーっ!」


言わんこっちゃない、と私はキッチンに駆け戻り、布巾をつかんだ。リビングからふたりの笑い声が聞こえてくる。
< 54 / 149 >

この作品をシェア

pagetop