冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
「育児書もね、"母親""母親"って書いてあるわけ。『赤ちゃんは母親の視線を感じることで安心します』とか。あれ、父親どこいったのかなっていう」

「わかる」


私も思った。最初は気にならなかったんだけれど、仕事がうまくいかなくなり、母親をしていることがきつくなってくると、そういうものが目についた。


「あれじゃ、女の人は"自分がやらなきゃダメなんだ"と思うし、男は"お呼びじゃない"と感じちゃうよなあ」

「それを都合よくとる男の人も多そうだけどね」

「俺はさみしかったよ。父親の視線じゃダメですか、って」


横顔が、本当にしゅんとしてさみしそうなので、手を伸ばして頭をなでた。恵が宿ってからの日々、感じていたことが思い起こされた。


「私はね、"父親"っていう言葉を見るたび、罪悪感が湧いた」


了がこちらに顔を向けた。


「両親が揃っていることが"普通"で、恵は"普通"じゃないところに産み落とされる、かわいそうな子なんだって。そうしたのはお前だって、責められてる気がした。自覚もあったしね」


腕が私の肩を抱き、引き寄せる。


「俺がいたらって、考えた?」

「考えないようにしてた。了と同じよ。私も了が、だれかとお見合いして、結婚の話を進めてると思ってたから」

「ごめんね……それについては完全に俺が悪い。ほんとごめん……」


了の声が力を失い、消え入りそうになってしまったので、私は笑った。私にペンダントを差し出したときのことを、生涯で一番というくらい後悔しているらしい。


「生まれてからは、世の中で言われてる、あり得ない父親たちの話を見聞きして、そんな父親ならいないほうがましだって思ったり。でもね」


温かく頼もしい肩に頭を乗せ、自分の膝を抱えた。


「それはあくまで、会ったこともない人たちが吐き出してる、実体のないなにかであって、まったくもって了じゃなかったの。今、それを痛感してる」
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