冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
危なかった。その幻影が、了と家族になりたいという欲求を上回らなくてよかった。そんなものをぶち壊す勢いで了が来てくれて、よかった。

こうしている間にも、了のPCのモニタには目まぐるしくなにかの連絡が飛んできている。メーラーだったりメッセージアプリだったり、ツールもさまざまだ。

メールのひとつに、「あ」と了が目を留めた。


「いいのが見つかったみたい」

「え?」


添付ファイルを開き、モニタをこちらに向ける。分譲マンションの情報だった。


「条件は前回探したときと変えてないから、問題ないと思うんだけど。どう? よさそうなら俺が見に行ってくる」

「よさそう。見てきて。写真送ってね」


きれいな外観と、便利そうながらものんびりした周辺の様子に、私は浮かれた。もともと引っ越しは好きだ。実家を出て以来、次はさらにいい街、さらにいい部屋に出会えると信じて住処を移す根無し草な生活を楽しんできた。

欲を言えば自分の足と目で探したいが、今回はそこは我慢だ。


「マノで働きだすのと引っ越し、どっちを先にするのがいい?」

「ほぼ同時がいいかな」

「タフだねー」

「集中力を上げて一気に片づけたいタイプなのよ」


了がキーボードを叩き、返信を書きはじめる。暮らしががらっと変わる気配に、久しぶりにわくわくした。けれど……。


「ご両親は?」


ついでに仕事に本腰を入れようとしていたらしい了が、手帳に伸ばしていた手を止め、こちらを見た。安心させるように、にこっと微笑む。


「一緒に住む話はちゃんとしてあるし、むしろ喜んでたよ」

「でも、入籍の見通しもないのに」

「ジョージの制止で父さんたちが二の足を踏んだのは、自分たちが浮かれてると気づいたからだ。後継ぎ見たさに俺を結婚させようとした結果が、数々の破談だったわけだからね。軽率な決断はだれも幸せにしないって、思い出しただけだよ」
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