冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
「恵ちゃんのお母さん、お尻拭きがもうすぐなくなりそうなので、補充をお願いします」

「あっ、はい、わかりました」

「今日もご機嫌でお砂場遊びをしましたよ!」


そのようだ、と靴箱から取り出した靴の中でざらざら揺れている砂を見て思った。靴の縁が擦り切れている。そういえばそろそろ小さくなっているかも。

抱っこ、とせがむ恵を抱き上げ、先生にお礼を言って園をあとにする。

門の外で待っていた了が、こちらに気づくと、はっと目を見開いた。その目が、私の腕の中の恵に釘づけになっている。

今朝は天気もよかったし、時間にも余裕があったので、ベビーカーを使わず、歩いてここまで来た。私は門を出て、了の前に恵をそっと下ろした。


「恵、"こんにちは"できるよね」


了の腿あたりまでしか背丈のない恵が、子供特有の慎重さで不器用に頭を下げる。その健気な仕草に打たれたように、了が言葉を失った。

立ちすくむ了を、恵が不思議そうに見上げる。ついこの間まで人見知りがひどかったのだ。ちょうど卒業していてよかった……と安心した矢先だった。


「ぱぱ」


ぎゃっ……。

私は急いで、「ぱぱ」と了を指さす恵を抱き上げて歩き出した。保育園のお友達の影響か、最近、大人の男性を見るとパパと呼ぶのだ。判定はとても雑で、年配の方であろうがフレッシュマン風の青年であろうがおかまいなしだ。

急ぎ足で家を目指す私の背後から、了が追いついてくる気配がした。


「早織、俺の子だよね」

「そういう話、今しないで」

「パパって言ってるじゃん」

「誰にでも言うのよ!」

「じゃあ、この人はパパじゃないって言えよ!」


ぐいと肩を引かれ、間近で視線が絡む。

私は唇を噛んだ。言えない。

恵に嘘は、つけない。
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