冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
こんなことで、気休めの嘘を言う了じゃない。本当なんだろう。

とはいえ、と頭の片隅が、無意識のうちに現実的な計算をはじめた。引っ越したら、生活費を全部出すと言ってくれている了の言葉に甘えよう。新たな収入は、いずれまた恵とふたりの生活に戻る必要が出たときのために貯めておくべきだ。

Selfish時代の貯金もわずかながら残っている。マノの収入は、当時よりは劣るが、今の倍近くある。ただしオフィス生活に戻るとなったら、自動的に支出も増えるだろう……。

視線に気づき、はっと顔を上げた。少しの間、考え事に没頭していたらしい。了がじっと私を見ていた。


「早織のことだから、なにひとつ楽観はしてないと思うけど」

「えっと、そういうわけじゃ」

「父さんたちは、早織を認めてないわけでも結婚に反対なわけでもない。俺だって、ひとりで先走って早織に会いに行ったわけじゃないよ」


よく考えたら、それもそうだ。

顔に安堵の色が出ていたのかもしれない。了は不服そうな表情になった。


「俺が根回しもせず、結婚しようなんて突撃する男だと思ってた?」

「どんな人かなんて忘れてた。一緒にいたのが、なにせ三年も前だから」


うそぶく私の手を、彼が握る。


「いざとなれば強行突破もできなくないけど、俺はできたら、手順を踏みたい」

「同感よ」

「目下の危機を脱したら、またふたりに会ってやって」


私はうなずいた。

それにはまず、彼らに知られないうちに、了をつけ狙っているだれかとの決着をつけなければいけない。

了もため息をつき、肩をすくめた。


「ただまあ、すべての問題はこの俺がどこのだれかってとこにあってね」


笑ってしまった。いつか聞いた台詞だ。意味は正反対だけれど。
< 60 / 149 >

この作品をシェア

pagetop