冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
「……副編集長を一年と少し、務めていました。そのあと出産し、復帰したんですが、すぐに辞めて……」


今のくだりは、言う必要があっただろうか。もちろん隠し事をしたいわけじゃないけど、この場でわざわざ話すことも……。


「この一年ほどは、パートをしていました」

「なんのパートですか?」


目の前の、一番近くにいた女性がふいに声を発した。

四十代半ば。マスタードイエローのトップス、紺のワイドパンツ。実用的なショートヘアはきちんとセットされていて、無造作な印象を受けない。ニットのトップスは、インナーとボトムを変えれば晩夏から初秋を乗り切れそうな優秀アイテム。足元のキャメルのオープントゥパンプスが全体をくだけさせている。

そんな情報が瞬時に頭に入ってきて、その瞬間、ぱっと視界が開けた気がした。ひとりひとりの顔、髪型、顔つき、服装。

場を包む、好意的な熱気。

今まで見ていたけれど見えていなかったものが、鮮明に飛び込んでくる。


「──あ……」

「あ、ごめんなさい。私は秋吉(あきよし)といいます。料理系の媒体を担当してるの。パート先が調理系だったらうれしいなあって」

「あの、まさしく、スーパーの惣菜部で、調理もしていました」


秋吉さんが「やった!」とうれしそうに歯を見せ、背後を振り返った。


「クーポン系メディアもあるの、そっちも助かるかも。ねえ?」


奥の島にいた女性が笑顔で手を振って応える。秋吉さんが再びこちらを向いた。


「でもやっぱり、女性ファッション誌という前歴を最大限活かすお仕事をしてほしいかなあ。まずはいろいろ一緒にやってみましょう。もしかしたら伊丹さんを編集長にして、新しいメディアをつくるのがいいかも。あっ、ちなみに私は十七時までの勤務で、月曜は出社しません」


いきなり展開した話についていけず、私は「は、はい」と情けない返事をした。


「みんな出社時刻もバラバラだし、在宅ワークの曜日を設定してる人がほとんどなんです。慣れるまで大変かもしれないけど、だんだんリズムがつかめてくると思う」

「はい」

「自宅でも隙間時間に仕事をしたくなったら、管理システムにログインすれば、ちゃんと勤務時間としてカウントされます。ソレイユさまさまってとこ」
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