冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
07. きっと、だれもが
「よかったじゃない、いい男に写ってて」
夜の十時前。声をひそめて話した。隣の部屋で恵が眠っているのだ。携帯電話の向こうから、了の唸り声が聞こえてくる。
『まあね』
「Selfishもいつの間にか、こんな雰囲気のモデルを使うようになってたのね。全然知らなかった」
記事に名前が出ていたので、せっかくだから調べたのだ。二十二歳。まだあどけなさが残り、自分に似合うものより、着てみたいものを優先してしまう年頃だ。それが写真の服装にも出ている。
『早織が辞めてすぐの頃、神野さんからうちにオファーがあったんだよ。雑誌がハイクラスに向かいすぎているのを緩和したい。そのシフトチェンジを象徴する専属モデルを探してほしいってさ』
「それで彼女を紹介したの?」
了が「そう」と答えた。
『服を着せると化けるタイプの子だ。でも素顔は年相応に子供っぽくて、撮りかた次第でそれを出せる。Selfishの格を下げずに、フレッシュな棘を与えるのにベストだと思った』
「さすがね」
まこちゃんが恵を見てくれている間に、コンビニにひとっ走りして買ってきた『Selfish』をめくった。久しぶりに見る誌面。相変わらずこだわり抜いた媚びない構成に、美しいグラビア。
価格が三十円上がっている。紙や印刷の質を落とすのと、ページ数を減らすのと、単価を上げるのと、どれを選択するかで悩み抜いたに違いない。その場にいたかった。そう素直に思えた自分に驚いた。
編集部を去ってから、Selfishは見ないようにしてきた。勤め先のスーパーにも少数の入荷があったけれど、あえて無視してきた。
私がいなくても、変わらず読者を魅了していることをあえて確認する必要などなかったからだ。そんな虚しい行為、ごめんだ。