冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
だけど今こうして、かつて命を懸けて向き合った雑誌を手にしてみると、もう二度とかかわることのできない無念さより、いっときでも深く携わった誇らしさのほうが勝る。

現金なものね、と苦笑が漏れた。新しい職場で歓迎され、やってきたことは無駄にならないと感じただけで、これだ。


『なに笑ってるの?』

「え、ごめん。笑ってた?」

『笑ってたよ。気持ち悪いなあ』

「うるさいな。それよりどう手を打つの、これ」


伝わらないと承知しつつ、テーブルに置いた了の記事を指でつついた。『それがさ』と落胆の声がする。


『だんまりを決め込むしかないんだ。代わりに提供できるネタもなくて。こんなときのために、脱税でもしておくんだったよ』

「クリーンな商売も考えものね」


向こうに合わせて、私もがっかりした声を出した。了が笑う。


『この写真、手をつないでるように見えるけど、偶然だからね。ほんとは距離がある』

「わかってるわよ。私をだれだと思ってるの」

『そっか』


以前いた会社は週刊誌も出していた。ほかの編集部と違い、週刊誌の編集部の雰囲気は独特で、近寄りがたいというより、近づいたら終わり、という感じだった。


『引っ越しの準備はどう? 人をやろうか?』

「大丈夫よ。荷物も少ないし、梱包は得意なの、元引っ越し魔だから。そっちこそ、新居の住み心地は?」

『ひとりじゃ広すぎるよ』


了はひと足先にマンションを移り、部屋を整えてくれているのだ。今週末、私と恵が行く頃には、完璧に住める状態になっている。
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