冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
* * *


マノの昼休みは一斉で、十一時四十五分から一時間だ。勤務形態がばらばらなだけに、休憩の時間くらいはそろえておかないと収拾がつかないのだろう。


「伊丹さん、お昼どうする? このあたり案内しましょうか?」


財布を振りながら誘う秋吉さんに、私は手を合わせた。


「ごめんなさい、速水社長に呼ばれてるんです。初日の感触を聞きたいって」

「あー、そういえば私たちもここに来たとき、呼ばれたわ」


がんばってねー、と激励の言葉をもらい、社長室に向かう。ノックをし、ドアを開けた先に、予想もしなかったものを見つけた。


「あ、来た来た。お疲れ、早織」


速水社長と向かい合って、応接用のソファでくつろいでいたのは了だった。入っていった私を手招きし、隣に座らせる。私は社長に会釈で断り、腰を下ろした。


「ここでなにしてるのよ」

「言ってもグループ会社だからね、定期的に訪問してるよ」

「奥さまの様子が気になってしかたなかったみたいよ。できることがあるわけでもないくせに、なにしにいらしたのかしらね、ほんと」


速水社長が辛辣な冷やかしを入れると、了の耳が赤く染まった。なるほど二代前の社長との関係は、こういう感じなのか。

私は社長の手元に目を留めた。週刊誌を開いている。


「もう出たんですね」

「狭間さんが持ってきてくださったの。こういう雑誌が頑として紙や印刷の質を上げないのは、そのほうが都合がいいからだというのがよくわかるわね」


私と了はまったく同時に「同感です」とうなずき、ため息をついた。


「Selfishさんの編集部へもお詫びに行ってきたところです。とくに影響はないと言ってはもらえたんですが」

「新しい専属モデルが、事務所の社長の寵愛を受けてるなんて、あちらさんにとってみたらステータスなんじゃない?」
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