冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
了ももう、わかっているだろう。だってそっくりなのだ。面影があると思ってはいたけれど、今日久しぶりに了の顔を見て、愕然とした。

いつもなにか問いかけているような瞳、笑ったときの口元、耳の形。

どうしてここまでっていうくらい、この子は了に似ている。

父親である、了に。

十二キロある恵を抱えて早足で歩くのも限界で、私は肩で息をしながら、足を止めた。日陰もない、住宅街の片隅の路地。汗がこめかみを伝う。

了が、持っていた鞄とスーパーの袋を地面に置いた。おずおずと、こちらに両手を差し伸べる。


「……恵?」


自分にその名前を呼ぶ権利があるのか、不安で仕方ないという感じの声だった。

恵はどちらの腕の中が快適かはかるように、その手をじっと見つめ、やがて「だっこ」と了に向かって両手を広げた。

了の目が潤むのを見て、私はびっくりした。

この歳の、この成りの男性が泣く姿なんて、なかなか見ない。


「おいで」


彼は震える声で呼び寄せ、恵を自分の腕に抱いた。

案外さまになっているじゃない、と偉そうなことを考えた。だけど恵のほうがまだ様子見をしているせいで、いまいちぎこちない。

それが嬉しいのか残念なのか、自分がどう感じているのか、わからない。


「早織、一緒に暮らそう」


私は手持ち無沙汰になった腕を胸の前で組み、目をそらす。


「生活、楽じゃないんだろ」

「さすが暮らしに余裕のある方は、下調べも入念ね」

「どんなに罵られても、俺は引かないよ。もう後悔とか反省とか、死ぬほどして、それでも来るって決めたんだ。もう一度早織に会って、やり直すって決めた」


勝手に決めないでよ。

その言葉は、声にならなかった。
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