冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
試したら、あたったというわけだ。

だれという確証を持つには至らなかった。電話の声は個性が消えるし、編集部内の人間とも限らないとすると、範囲が広すぎる。

だけど記憶の隅に引っかかるなにかがある。あの雰囲気、詰めの甘さ……。

考え込んでいたら、速水社長が大げさなジェスチャーで首を振った。


「狭間さん、あなた、大変な方と一緒になるつもりよ、わかってらっしゃる?」

「僕は不甲斐ない男ですから。このくらい頼もしい妻じゃないとね」


堂々と言い切る了の靴を、私はカーペットの上で蹴飛ばした。

昼食は、了が差し入れてくれた輸入チーズショップのクロワッサンサンドを、残りの時間で詰め込むことになった。

社長室を辞去して会議室に場所を移す。私が黙々とお腹を満たしている間、了はにこにこしながら見守っていた。了はわざわざ別のお店で、熱いコーヒーも買ってきていた。ふたりでそれを飲んで、ようやく人心地がつく。


「ありがとう、ごちそうさま。おいしかった」

「午後もがんばって。早織の働きぶりは、もう百合さんの耳に入ってるって」

「ここはすてきな会社ね。貢献したくなる」


会議机用のチェアにゆったり腰かけた了がにっこり笑った。


「伝えておくよ。早織は猫タイプなんだな」

「猫タイプ?」

「俺が考えた、働く上での帰属意識の分類。"家"である組織自体につくタイプと、上司とか先輩に惚れ込んで、その個人のために力を尽くすタイプ。前者が猫」

「後者が犬、と。なるほどね」


とてもよくわかる。それでいくとたしかに私は、中の人が入れ替わろうと組織自体の門番をしたくなる、猫タイプだ。


「俺の統計では、女性は犬タイプが多いんだけどね」

「女らしくなくてごめんなさいね」

「そんなこと言ってないよ。男らしいって言ったんだ。おっと」
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