冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
08. オール・ユー・ニード
真紀との遭遇のショックが抜けきらないまま買い物を済ませ、マンションに戻ったら、室内はしんと静まり返っていた。
ひやっとした。子どもが静かになるのは、なにかあったときだ。物音が消えると警戒アンテナが立つくせがついてしまった。荷物をダイニングに置き、各部屋を見ていく。
「あらら……」
ふたりは寝室で寝ていた。マットレスの上で遊んでいて、そのまま眠ってしまったらしく、あっちこっちを向いて転がっている。
無責任にも了が先に寝落ちしたのではと眉根が寄りかけたけれど、恵のお腹にタオルが巻きついているのを見て、そうじゃないとわかった。子どものこととなると上から目線で疑り深くなるのはなんなんだろう。本当に反省したい。
洗面所から新しいタオルを取ってきて、汗をかきやすい恵の頭の下に敷いた。蹴飛ばされて床に落ちていたタオルケットを拾い上げ、了の身体にかける。
ごろんと仰向けに寝返りを打ったので、起こしてしまったかと顔をのぞき込んだら、変わらずぐっすり眠っていた。
あまり見る機会のなかった、了の寝顔。ホテルではじめて夜を過ごしたときも、『もったいないから早織が寝るまで起きてる』と言って、私の前では寝なかった。
それまではお互いの部屋に泊まることもなかった。ごくたまに、ソファや車の中でうとうとしているのを見かけたことがあるくらいだ。
無防備に隙間のあいた唇、力の抜けきった眉と目元。安らかに上下する胸。やり手芸能事務所の社長とはとても思えないあどけなさに、笑いが漏れた。
「お疲れさま、パパ」
髪をなで、頬にそっとキスをする。ふいに了の呼吸のリズムが変わった気がして、これは目を覚ますと思い、急いで身体を起こそうとした。その前に手が伸びてきた。
やみくもにこちらを探る手が、私の腰を見つけ無造作に引っ張った。了の上にまともに倒れ込みそうになったのを避けようとして、カーペットにひざを打つ。
痛みに声を上げる間もなく、抱きしめられた。強烈な力に肺から息が出ていく。