冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
「ごめん、寝ちゃったよ」
Tシャツの中に手を入れ、お腹のあたりをぽりぽり掻きながら了がダイニングに現れた。私はシチュー鍋のふたを開け、味見をする。
「そのようね」
「なんでそんな冷たい声出すの?」
了の眉尻が下がった。どうやら眠っていた間のことはおぼえていないらしい。私はほっとすると同時に、こののんきな男をからかってやりたくなった。
「そんな声出してないわよ。了が寝てる間に引っ越し荷物が届いて、開梱するのも収納するのもひとりでやったし、洗濯も済ませたしご覧のとおり夕食の支度もできてるけど、べつに腹を立ててもいません」
「ごめんってば。手伝うよ」
慌ててキッチンに入ってきた了に、こらえきれず噴き出してしまった。迎え撃つようにぎゅっと抱きつくと、「うわあっ!?」と彼が変な声を出す。
「えっ、なに? 早織、ねえ、なに……?」
理解できないながらも、反射的に抱きしめ返すところがかわいい。
胸につけた耳から、ドクドクとすごい速さの鼓動が聞こえる。あらら、寝ているときはあれで、意識があるときはこれか。了らしい。
寝室での一件は、寝返りを打った恵が了の背中に激突したことで彼の気がそれ、ことなきを得た。その後しばらく、了の匂いが消えてくれなくて困った。
「早織……」
「嘘よ。恵の相手をしててくれてありがとう。私を手伝ってくれるより、そっちのほうがずっと助かるの。お腹すいてる? ごはんにしましょ」
「うん、だいぶすいてるけど……」
様子を探るように、怪訝そうな目つきで見下ろしてくる。私は了から離れ、「お皿を出して」と頼んだ。