冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
09. 心の中に
舞塚さんは変わっていなかった。くるんと巻いた髪、肌の色や骨格を無視したかわいらしいメイク。制服を着ているから私服の趣味はわからないが、おそらく以前と似た感じなのではと想像できる。
好みは人の自由だ。でも顔は変えられない。だからこそ"好きな系統"と"似合う系統"を融合させるために、研究と練習を重ねなければならないのに!
自分の顔と向き合うことができるのは本人だけだ。それを怠るのは、自分に対しても好きなものに対しても失礼だし、かわいそうだ。
まあ、それはいい。
ソレイユの本体といわれるソレイユ・コーポレーションの役員会議室。
椅子のひとつに脚を組んで座っている舞塚さんの前には、あきれ顔で机に寄り掛かって立つジョージさん。そのそばに私。
午後の仕事を片づけ、舞塚さんのシフトが終わる前に飛んできたのだ。私は無視されるのを覚悟で「お久しぶり」と挨拶したが、やっぱり無視された。
「その態度からすると、あなたがやったのは確かなのね」
「偉そうな物言いしないで。先生でもあるまいし」
「私の言いかたが偉そうに聞こえるとしたら、それはあなたが卑屈だからよ」
ピンクのアイシャドウに囲まれた目が、ぎろりと私をにらむ。
会議室のドアが勢いよく開いて、だれかが入ってきた。息を切らした了だった。私たちを見回すこともせず、まっすぐ舞塚さんの前まで行く。彼女が居心地悪そうに目をそらし、椅子の上で身じろぎした。
了は少しの間彼女を見つめ、静かに話しだした。
「きちんとお会いせず、礼を失したことはお詫びします。だけど俺や、俺の家族の立場を貶めるようなことをするのはやめてほしい。それは筋が違う」
「私はただ、あなたが人を侮辱したことを思い出させたかっただけよ」
「想像力のないお嬢さんだねえ」
ジョージさんがため息まじりに言い、片手を広げた。
「人の背中に悪口を書いて、『本人に伝えたかっただけ』って言ってるようなもんだよ。自分のしたことの影響も想像できないのならねえ……」