冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
02. The Way we were
私たちが出会ったのは四年前の二月。私の勤めていた出版社が開催した、謝恩パーティの席上だった。
当時、私は『Selfish』の副編集長に抜擢されたばかり。この毒々しさを秘めた華やかな世界で、これからも上を目指して突き進むのだと信じて疑わなかった。
『早織、"ソレイユ"の狭間さんがいらしてるわよ、ご挨拶したいんですって』
都内の老舗ホテルのパーティーホール。立食のごちそうを味わうひまもなく、自社のモデルを売り込みたい事務所長やファッションモデルの卵たちのあいさつを延々と受けているうち、編集長の神野真紀(じんのまき)が私を呼んだ。
ファッション誌の編集長にふさわしい、トレンドとオリジナリティを見事に融合させた大胆なボタニカル柄のドレスを着ている彼女は、私の三歳上だ。
私が新卒として編集部に配属されたとき、競合の出版社から転職してきた。『お互い新人よ、真紀って呼んで』と彼女は私に手を差し出した。その手を握り返したときから、私たちは友人兼ライバルとして歩んできた。
私はまわりを取り囲む人々に断り、輪を抜け出した。
『狭間さんって、次期社長っていわれてる?』
『そう。今の社長はどう見てもお飾りだから、すでに狭間さんが社長のようなものね。ちなみにホールディングスカンパニーの社長の息子さんよ』
『超のつく御曹司ね。どんな感じの方?』
笑顔を張りつけ、お互いにしか聞こえない声で会話する。数歩進むごとに、広告代理店の担当や、彼らに引き連れられてきた広告主や売れはじめのタレントなどがすり寄ってくる。
それらを完璧に感じよくあしらいながら、真紀は『いけすかない坊や』と言った。
『やっぱりね』
『……と言いたいところなんだけど』
『え、なに?』