冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
見上げてくる優しい視線を受け止めながら、私はお尻をすべらせ、床の上に移動した。ラグに腰を下ろすと、追いかけてきた了の目と高さが同じになる。


「あんまりこういうこと言うタイプじゃない自覚はあるんだけど」

「うん?」

「私のこと、あきらめないでね」


私の片手を握りしめ、了がきょとんとした。彼のことだから、「うん」とすんなり言ってくれるのかと思いきや、何事か考え込んでいる。

そして寝そべったままおもむろに身体をこちらへ向けると、片手で頭を支え、もう片方の手で私の手をぽんぽんともてあそんだ。


「どうかなあ、それは早織次第だなあ」

「いきなりなに余裕ぶってるの?」

「そういえば俺、早織の口から聞いたことないんだよね」


いやな予感にさいなまれつつ、「なにを?」と慎重に聞いてみる。了がにやっと笑った。


「俺と結婚したいって」

「……言ったでしょ?」

「『いいわ、結婚しましょ』とかそんな感じだろ。そうじゃなくて、もっと気持ちが入った言葉、聞きたいなってずっと思ってたんだよね」

「どうして今!」

「じゃあいつならいい? 決めておこう」


なんなの!?

逃げようとしたものの、ぐっと手を握られてしまい、できない。にやにやした視線に、顔が熱くなってくる。

了が身を乗り出し、私の頬にキスをした。ぱくりと食むような、からかいめいたキスだった。遊んでいる。

この時間が引き延ばされるくらいなら、と覚悟を決めた。ぎゅっと目をつぶり、キスから逃れるべく懸命に顔をそむける。効果はないけれど。
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